04/08/11 茨城県県北某市

一路北上郷愁篇。

県南、というか、水戸以南はほとんど知らずに18年間を過ごしてしまったが、確かに茨城はわたしの生まれ故郷である。なんしか、「意地焼ける」が通じる。青あざは青なじみだし、適当な人はごじゃっぺだもの。しょぼいことの三段活用は「いしけえ、やしけえ、へしけえ」ですからね。やっぱり、わたしってば生粋の県北(ケンポク)ッ子なのですね。身に染み付いているわ、イバラキ弁が。今後、わたしのことはマギー★シローと呼んで…いただきたくはないです、決して。

さて、今日は、この県南のアネ宅からケンポクの実家までせいぜい100kmも走ればいいだけの日である。3時間ちょいの道程だし、箱などの大物は後続のアネカーに乗せてもらえるし、全く知らない場所を走るわけじゃないし、と、出発はかなり遅めの時間の10時を設定している。これなら、ほとんど眠ったまま朝ごはんを食べていたカブ彦の人も行動できる筈。そう思っていたのだけれど、そんなわたくしの素晴らしい仏心に気づいていないのか、わたしが着替えをすっかり終えてもう出られる用意ができてるというのに、一向にカブ彦の人が寝室から出てこない。まさか二度寝とかしてんじゃねえべね?充分過ぎるくらいあり得る可能性をイバラキ弁で疑いつつ、開け放たれた寝室のドアから中を覗いてみる。あのぅ、すみません、まだですか?

あのときも興奮気味に訴えましたけどね、ねいさん。寝室に一歩踏み込んだわたしの目に入ったのは、ほんと、想像だにしない世界でしたよ?なんていうのかしら…いわば、カブ彦の人と姪っ子様のくんずほぐれつのミラクルワールド。未だかつて経験したことはおろか目撃したことすらない、らぶな微粒子溢るる世界が繰り広げられていたんですから。っていうか、カブ彦の人、着替えすらしてないじゃないですか。っていうか、姪っ子様、「おいで♥」だなんて、女の子が殿方をベッドの上に誘うもんじゃありませんッ!!あぁん、もう、ベッドの上でぐるぐる回されているじゃないですか。しかも、「もう1回?」なんて小首を傾げておねだりをして…。そんなはしたないこと、おばさんは許しませんからね。

思い返せば、朝食のときも姪っ子様のカブ彦の人へ注がれる視線は熱かった。熱すぎるくらいだった。久しぶりに会った血の繋がった唯一無二の叔母たるわたしは、まるで眼中に入っていなかった。ここで間を割って声をかけるわたしは、全くの邪魔者である。老兵はただ消え去るのみですよね、マッカーサー君。--もういいや、一人で出発しよう。君らは楽しく過ごせ。

ヤンキーへの道を歩み始める姪っ子様 勝負服に身を包み、カブ夫にまたがりご満悦の2歳8ヶ月児。
16歳以下の無免許運転なので、目線を入れてみた。

曇り空の下、あの衝撃の光景を反芻しながら走っていると、急にカブ彦の人が追い越しをかけてくる。何?見知らぬ土地を俺がかっこよく先導しちゃうぞってやつ?追い抜くと、次は速攻右ウィンカー点滅させる。うむむ…追い越しをかけて即右折とは、超煽りプレイ?右を見ると、茨城ではメジャーなスーパー、カスミストアーがあるけど、まさかスーパーで買い物というわけではないだろう。となると、導かれる結論はあれですよ。カブ彦の人は腹痛かなにかでご不浄を求めて慌ててるとかなのかしらん?とりあえず、わたしも右ウィンカーを点滅させて後に続くと、カブ彦の人が入っていったのは、カスミストアーではなくその先にあるコンビニである。まあ、コンビニの方が気軽にトイレ拝借できそうですもんな。わかるよ、わかる。存分に拝借したまえ。

ところが、コンビニの前に駐車するなり、カブ彦の人の口からとんでもない発言が飛び出した。

「ここは北海道や」

ねいさん、ねいさん!わたしたち、いつの間にか道産子になっちゃいましたよ?

大阪からすれば700km以上も北に位置するし、水戸には木葉下町(あぼっけちょう)なんてアイヌ語由来の地名があるし、強引に言えばそうとも言えるかもしれない……いや、言えません。ここはひとつ、夏休み後に「俺、北海道に行ってきてん。ええやろー」なんて吹聴して赤っ恥をかかぬよう、わたくしが日本地図が滅茶苦茶になってしまっている関西の人の間違いをしっかりと正してやらねばなりません。えーとですね、満面の笑顔のところ申し訳ないんですが、北海道っていったらここから随分と北になりますよ。そりゃ、確かに大阪から見たら北海道に近いっていえば近いですけど、そのレベルっていったら、大阪を沖縄だっていうようなもんですよ。それに、東北を無視しちゃったら、東北に住む人々が黙っちゃいませんよ。お米の供給が止まっちゃいますから。

そんなわたしの狼狽はお構いなし。あまつさえ、カブ彦の人はコンビニの前で写真を撮りたいと仰りやがりる。こんな田舎で、そんな田舎者的なこと…。コンビニなんかうちの近所にだってたくさんあるじゃないですか。納得のいかない気持ちでカメラを構える。

ああ、そういうことか。店舗の全景を見て疑問が氷解する。このコンビニの看板はイバラキに多いSPARやヤマザキショップではなく、北海道大好きライダーがこよなく愛するあのセイコーマートのもの。確か、関西では滋賀県かどこかに店舗があったと聞いたことがあるけれど、大阪に住んでいたらセイコマを利用するには北海道まで出向くしかあるまい。そうか、ここは北海道だ。25時間も自走したら、北海道にだってたどり着く筈だもの。

北海道大好きライダーの聖地 イバラキは 蝦夷と君が言ったから 8月11日は 開拓記念日
言われてみれば、そんな気がしないでもない。

衝撃の北海道発言を胸に、さらに北へとリアル北海道に向かって進む。まだまだわたしにとっても未知ゾーンの県南〜県央付近、なんというか…つまらない。風景が単調だし、結構車が走っているし、沿道に住んでいる人には申し訳ないが、テンション盛り下がることこの上ない。日本一周をした人などが自分の走ったルートを公開していたりするが、ずっと海沿いを走ってきたにも関わらず、それらは往々にして茨城もしくは福島の辺りでくいっと内陸に進路を取る。それを見ては「なんだよ、茨城を通れよ。茨城をよ」などと思っていた不肖わたくしでございますが、今ならわかります。それ、正解。なんもないですもん。

やっと見慣れた風景が出てきたのは、水戸を過ぎた頃からだ。なるべく海沿いというカブ彦の人のリクエストに答えるべく、旧勝田市付近で、今度はロッコクではなくR245に入る。ほんとうは大洗よりも前でR51に入っておけばもっと海沿いを堪能できたのだろうけど、わたしにそんな高度な道選択は到底無理である。ここまで間違えずに来たのも奇跡的なんですから。

出発した頃は曇り空だった空も、今じゃすっかりかんかん照りの様相を示している。暑さをしのぐため、ここで少しコンビニ休憩を取ることにする。と、コンビニで買物を済ませて出てきたカブ彦の人は、またしても満面の笑顔だ。ここ、セイコマじゃないけど…。

「店員の女の子、むっちゃ訛ってた」

幸せの種子というのは、至るところに転がっているのですな。

一方のわたしはといえば、川を渡る度に昂揚感でぞくぞくしまくりである。那珂川を渡ったときもさることながら、久慈川を渡るときなんて、もう、見たことある風景の連発に悶絶せんばかりですよ?日立おさかなセンターなんて人をなめきった名前の建物でも、懐かしさ度出力150%くらいの勢いである。ここからの風景ときたら、全部が単語でしか言い表せない盛り上がりっぷりなのである。この気持ちを共感できるのって、誰だろう?誰もいなさそうだけど…うわ、河原子海岸だよ。あ、日立電線。うわ、あの熱帯魚屋ってまだあるし。

海沿いの国道R245は日立駅付近で終わってしまう。いつものわたしならここからR6に合流すべく、地図を見ながら右往左往といったところだけれど、今回のわたしはひと味もふた味も違う。ザ★地元エリア。地図がなくても、なんとなく道を知っているのである。素晴らしきかな、18年間の記憶の蓄積。だてに車に乗せられて通っていたわけじゃない。躊躇することなく、R6に合流する車の列には並ばず、日立駅海岸口方面の細い道に突っ込む。ああ、これね。よく通ったわ。車がすれ違うのは少しつらいような道をくねくねと走り、海の方に抜けると…あれ、知らない道になっている。そういえば、この辺りの混雑(とはいっても、大阪から比べたらかなり短い渋滞だけど)を緩和するために、ずっとバイパスを作る工事をしていたっけ。それがとうとうできあがったらしい。できあがったはいいけれど、ここを通っている車の数はかなり少ない。意味があったんだろうか?

海といえばこれ 子供の頃から見てきた海はいつもこんな感じ。
だだっ広くて、何もない。
あの先っぽあたりがわたしのお散歩エリア。

思った以上に時間がかかり、実家に着いたのは15時前。どこにカブ夫を停めたらいいのかわからないので、とりあえず、おにいちゃんの船の前にカブ夫とカブ彦を並べて停めていると、音を聞きつけた(カブのエンジン音ではなく、わたしたちに大興奮するばかいぬの声にだけど)母が家から出てきた。

「大きいので来たんじゃなかったのけ」

うしし。驚いてる。驚いてる。この顔が見たくて「バイクで行くから」とは伝えたものの、ジェベルさんかカブ夫かというところについてまでは言及していなかったのだ。ごちゃごちゃやっていると、父も家の中から現れた。

「なんだ、大きいので来たんじゃなかったのけ」

あなたがた夫婦は同じ言葉しか言わないのですか。どうもうちの家族は盛り上がりに欠けるらしい。できることなら、盛り上がりすぎてミュージカルが始まっちゃうくらいの一家であって欲しい。今後はトラップ一家でも目指すか。

イバラキ弁一言メモ:意地焼けるの使い方としては、どうしようもなく
          いらいらしてむかついたときなどに
          「あー、意地焼けんな(発音は“いっちゃけんな”が
          気分)、もう」
          と吐き捨てるのが正しい。
          意地焼けた気分は意地焼けるという言葉でしか
          表わせないベンリ★ワードだが、生粋のイバラキ民しか
          使えないだろうな、きっと。