04/08/12 千葉県白浜町

縦断・ザ★チバラギ。

「250ccとかだったら、わかんだけどなあ…」

午前7時。わたしたちが車庫でそれぞれのカブに荷物を積んでいるのを眺めている“ご近所のサイトーさん”がしきりにつぶやく。わたし的に言えば、ジェベルさんで出かけるのもカブ夫で出かけるのも、そう大差ない気がする。むしろ、カブ夫の方がお尻が楽だし、荷物いっぱい積めるし、地図もすぐ見られるし、らぶ度が高いというか…。ジェベルさんの利点は、クラッチが握れることと自動車専用道路に乗れることくらいであると断言できる。勿論、クラッチが握れるとはいっても闇雲に握ってみるだけで、具体的な利点を述べよといわれたら、すごく困る。ちょっと上級者っぽいって感じかにゃー? それに高速は乗らないしな、料金所が怖いから。

というより、あれですよ。そんなご近所のサイトーさんのつぶやきの中身よりも、気になるのはサイトーさんの正体の方ですよ? 早朝からうちの家族に交じってカブ夫について誰よりも雄弁に語っていらっしゃいますが、一体全体、あなたは誰なんですか? 実家を離れてから幾年月、わたし不在の間に、幼馴染の親も幼馴染同士、そしてそのまた親も…というご近所人物相関図にも多少なりとも変動があったのでしょうか。さっぱりわかりません。(後日、母から受けた説明によると、このサイトーさんは“2階のサイトーさん”らしい。更には“3階のサイトーさん”なる人物も存在するらしく、おまけに二人とも山菜採りを嗜まれるとのことで、こうなってくるとわたしにはもう区別がつかない。)

「夕方までいたらいいべよ」

もう一人好き勝手なことをつぶやく人物、それはマイ・ブラザーゆうちゃんである。彼は昨夜帰ってきたときから、同じことを繰り返している。思えば、昨夜、彼が帰宅したときからこの会話への伏線が張られていたのだ。というのも、

「おにいちゃん、ただいま」
「あんた、カブで帰ってきたのけ?」
「うん」
「バカだっぺな?」
「いや…。確かに、さほど、お利口ではないとはと思うけど、バカじゃないと思う」
「じゃ、ボーケンカにでもなったんけ?」
「いや、単なる夏休みの帰省じゃん」
「あれは、ボアアップしたのけ?」
「したした。88ccだかんね」
「キャブ変えたんけ?」
「…そういう難しいことは、カブ彦の人に聞いてくれる?エンジン大好きな人だから」
「じゃあ、明日、船のエンジン来っから、見てけばいいべよ」

上記のような噛み合ったか噛み合ってないか少々判断に苦しむ会話が繰り広げられていたのだ。まあ、昔からのことですから。そして、会話は、疲れているからと8時に布団に入っている妹に対し、

「何? もう寝んの? まだ8時だっぺよ」

と言い捨てて自室に去っていくという兄の傍若無人ぶりによって締めくくられるのであった。まあ、彼がこの世に生を受けたときから弟として慣れ親しんできたお姉さまなら、この会話は身に染みてよくおわかりになる筈です。我らがゆうちゃんが妹を夕方まで引き止めるのは、決して妹との別れが惜しまれるのではなく、自分にとって得する要素が減ってしまうからに他ありません。夕方まで妹(というかカブ彦の人)を引き止めておくことは、つまり、
自分でエンジンの具合を見なければならない

嫌いじゃないけど、ちょっと面倒

カブ彦の人はエンジンらぶ♥

それなら船のエンジン見たいじゃろ?

見せてやるから、ありがたく見やがれ
という図式から来ていることなのです。ああ、そうなのです。いつだって、うちげの長男は勝手なのです。

そんな兄の与太っ話や素性もわからぬご近所のサイトーさんのつぶやきにつきあっている暇はありません。これから一路大阪まで戻るという大仕事が待っているわけですから。箱根駅伝のように、単にある場所に行って帰ってをしているだけのような気もしないでもないけれど、ツーリングなんて極論しちゃえば結局はそんなものなのです。現実からは目をそむけ、両親に手早く挨拶を済ませばか犬をひと撫で、南下の旅に出発です。やりますですよ、がふー。

まずはロッコクに出るべく、信号待ちをして…というところで、はたと重要な任務について思い出した。そうだ、あれを忘れちゃいかんですよ?何のためにここまで来たかわからなくなりますよ?本来なら左折すべきところを右折して、ロッコクから裏道へと外れる。徒歩1時間圏内はわたしのいつものお散歩コース。足が記憶する道を駆け抜け、たどり着いた先は、今までここで記念撮影などしたことある人はいないと断言できる場所。しかしながら、我らイバラキカブーズにとっては、聖地とも言うべき場所。ええ、今日からここをメッカと呼ぶことを知事に要求いたします。

イバラキカブーズの聖地 本日をもってイバラキカブーズの解散を宣言する。
そして、それを受け、本日をもって、ノースイバラキカブーズの結成を声高らかに宣言したい所存。
正直、これがやりたいがために、生贄を連れて帰ってまいりました。

今日は、ひとまず、というか相変わらず海沿いを走るコースを取る。川尻のいつもの場所でロッコクから裏道にそれて、海沿いぎりぎりのくねくね地元道を走る。小木津のサーファーがぷかぷか浮かぶカッパゾーンを抜け、日立の駅の裏を通り、河原子、水木海岸とわかる人にはわかる、わからない人にはわからない地名を繋いで行く。

朝の海道で気分をよくしたのか、またカブ彦の人が追い越しをかけてくる。今回は周りにはセイコマはないのだけれど…。前を走ったまま、カブ彦は左方にある駐車場に入る。休憩にはまだ早いじゃろ?あ。ああ…もしや、あれですかしらね? 少し予感はしていたけれど、その目にも留まらぬ早業でスタンドを立てる行動からすると、お腹痛でしゅかね? 彼は何も言わず、ヘルメットを脱ぐとそれをわたしに押しつけ、一目散にトイレへと向かっていった。エマージェンシーランプ点灯中ですな。ええ、わたしには点滅しているその赤色灯が見えますとも。

そうとあれば少々時間もかかる筈。わたしもヘルメットを脱いでゆっくり待つことに…と、向かっていったのと同じくらいの勇ましい足取りで戻ってくる。よもや敗戦ってことはないですよね? 大人なんだから。ウェストバッグの中からティシューを取り出して手渡すと、彼は無言でそれを受け取り、今度は早足にトイレに戻っていく。生きろ、カブ彦の人。道程はまだまだ長い。

ほどなくして戻ってきたカブ彦の人が言うよう、「まずしゃがんでからトイレットペーパーの蓋をめくったらな、紙がないねん。しかもな、そこの蓋の裏のとこに、“紙は自分で持って来い”って落書きしてあって、俺はもうかちーんって来たね」とのこと。彼が生き生きと語るのを聞くにつけ、脱ぐ前に発見できてよかったと心底思う次第。だって、個室から電話をかけて呼ばれても、そんな状況のところに紙を持って行けるほどの親切心が自分にあるとは思えないのだもの、正直なところ。

腸も心もすっきりと晴れやかなカブ彦の人を後ろに従えて走ってみると、昨日(わたしの心の中に)一大センセーションを巻き起こした“イバラキ=蝦夷説”について、ちくっと納得しないでもない気がしてきた。まず、セイコマがあること。これは大きい。次に、関東方面の人々の北への玄関口・大洗港があること。昔住んでいたときなどはバイクやら北海道やらのハ行のアウトドアな言葉には毛程も興味がなかったのでちっとも気がつきゃしなかったが、なるほど、大きい荷物をくくりつけた浮かれ気味のバイクが結構走っている。舞鶴での…というか、今のわたしの姿もその“大きい荷物をくくりつけた浮かれ気味の”原付のような気もしないでもないが、こればかりは地元に残る数少ない知り合いに発見されないように祈るしかない。浮かれているというより、少々薄汚れているのが難だけど。

そして、北海道気分に更に駄目押しするのが、鹿行地域のメロンの露店の存在である。確か、この辺ってアンデスメロンを作っているとかなんとか小学校辺りで習ったような気がする。国道沿いにメロンの露店が出ちゃっているところなんか、イバラキ=蝦夷説を盛り上げちゃう有力な物証なんじゃないかとわたくしは推測いたします。ああ、安心ですメロン。

ぺろっとメロンの試食などをしてさらに南下すると、今度は、サッカーマニヤが小踊りするであろう鹿島スタジアムの姿が見えてきた。一応、これは陸の孤島と呼ばれた何もないこの辺りの一大観光地といっていい筈。恐らく。なんしか、以前一緒に働いていたイクコ様(サッカーファン・京美人)が「鹿島はジャスコくらいしか遊ぶところがないって聞いたんですけど、本当ですか?」と興奮気味に訊いてきたくらいだし。

さて、ここで解説しよう。ぶっちゃけまじやばいナウなヤングたちは知らないかもしれないが、今を遡ること10年程前のJリーグの発足は、今のあれっぷりからは想像もつかないくらい華々しいものだったのである。その盛り上がりたるや泣く子も黙る程で、後追いとしてJビーフやらJポップやら川平慈英やらJ文学なるものまで出てきて、「さすがに文学でJはおかしいじゃろ? Jは。Jに文学だなんて、なんかが破綻してねえ? あぁん、もうッ!! 認めません。わたくしは断固認めませんからネッ!!」とハンカチをきりきりと噛み締めたい気持ちになったりもしたことはさておき、スポーツに興味のないわたしですら、茨城新聞やら常陽銀行やらが前面にあの鹿を押し出すので、鹿島アントラーズの試合をTVで観たりした過去がある。定着してるんだかどうかわからないオフィシャルソングを各チームが作ってみたりと、かなり浮かれまくっていたのだ。オレオレなんて今じゃ口ずさむのも犯罪的な香すら漂う恥ずかしいことを言いながら。ちなみにアントラーズはそのオフィシャルソングにNAHKIさんを起用していて、その目のつけどころのシャープさに感心したものである。そういやアルシンドという人は、河童みたいな髪型をしていた。

しかしながら、やっぱり、スポーツにはまるで興味のないノースイバラキカブーズには、鹿島スタジアムは縁のない施設である。野球のチーム分け(セとかパとか)すら心許ないカブ彦の人は、サッカーチームなんてエンジンがついていない代物は、なおのことご存知ない上に興味の遙か対象外のことだろう。勿論、話題に上ることすらなく素通りされるのである。

チバラギの最右翼 じりじりと照りつける太陽の下、醤油香る野田を抜け、本日の第二目的地であるチバラギの融合地点の最右翼=犬吠崎に着いたのは正午過ぎのことだった。
地図でも目立つ犬吠崎。初日の出シーズンの一大スポットとして名を馳せる彼の地の繁栄ぶりはさぞや……と期待しつつ、岬の売店近くの駐車場にカブ夫殿を駐車する。
ひとまず、イバラキ縦断、お疲れさま。

北海道の岬にあると聞く噂の岬ステッカーがないものかと売店に潜入を試みるが、そういったものが一切見当たらない。いかした絵葉書も見つからない。ここは…もしや…よもや…あれですな。ザ★昭和の観光地。貝殻のネックレス、どことなく薄汚れたキャラクターグッズ、団体様休憩室、サザエの串焼き。ステキ★キーワードを彩るのは、ほんの少しのホコリのエッセンス。

長居しても仕方ないので、サザエやイカの串焼きを食べてお腹を満たし、早々にレッツ再出発。なんしか、まだ房総半島の入り口に立ったばかり。ノースイバラキカブーズの解散の地への道のりは、まだまだ長いのだ。

駐車スペースに戻ってくると、並んだカブ夫とカブ彦の後ろを塞ぐように車が1台止まっている。つーか、これだよ、これ。車はいーっつもこうだ。君らには立派な駐車場があり、道路だってど真ん中を威張って走るじゃないですか。なんでこんな停め方をするかな。っていうか、何? カブ夫が車だったとしても、そんな無法者な停め方をするですか? あぁん? 横から上手に抜け出るカブ彦をよそに、わたしは一人無駄にヒートアップです。なにもかも太陽のせいなんじゃよ? ドロンくん。

かくなる上は、いかにカブ夫を傷つけず、かつ車にダメージを与えて脱出するか、そればかりに心を砕くことにする。カモン、魔太郎の魂。アネ譲りの性格の悪さは折り紙付きです。この憤り、晴らさでおくべきか。

「大阪からですか?」

不意に声をかけられ、呪いパワーに集中させたまま魔太郎顔を見上げると、先程こちらをちらちら見ながら出発していった白いボルティの人が戻ってきていた。

第三者の目撃者登場とあっては、車を成敗するわけにもいかない。ボルティ兄さんに向き直る。話をしたところによると、彼も以前同じまちに住んでいたことがあったため、ついついUターンして戻ってきたそうだ。そういや、北海道でも同じまちのハーレー兄さんに会ったことがある。夏になると、あそこの市民たちは一斉にどこかへ移動するんだろうか? となると、まちは今頃もぬけの殻ですな。

ボルティ兄さんを見送り、それについて行くように犬吠崎を出発してからしばらくして、やっと事の重大さに気づいたのだが、わたしたちノースイバラキカブーズはどうも房総半島を過小評価していたようなのだ。

房総半島といえば、決して小さくはない落花生の一大産地千葉県が丸々入っちゃう半島である。それをまたまた決して小さくはない蓮根の一大産地茨城県を縦断した後に半島を一周し、神奈川県なんかまるでなかったかのように無視した挙句に静岡県を突っ切り、「秋葉神社のキャンプ場(静岡県の中部)に泊まれちゃうかなあ」なんて、一体全体誰の口から出た言葉なのか、良識を疑っちゃう次第であります。

起点を羨望の眼差しで見つめるノースイバラキカブーズのみなさん 九十九里有料道路に乗れない弱小原付二種チームは夕方の街中渋滞に巻き込まれ、路肩の狭さ故にすり抜けることもできずにいる。
モーローとした余り、信号なんか軽く佛恥義理しちゃったりする勢いである。
無意識で。

しかも、モーローとべたべたの二重苦では収まりが悪いと判断してくださったのか、神様は更に1つ苦難を与えてくださるのである。つまり、カブ夫の小トラブル。これからますます暗くなっていくという夕暮れどきのテールランプ切れ。整備士の人が言うには、なんとかがなんとかだとかで、要約すれば、とりあえず、やる気まんまん仕様にさんきゅう、艱難辛苦! よろしく、哀愁! ってことらしい。ちっともわからないが、要はボアアップして悪魔に魂を売った代償はハイオク仕様だけでなく、いろいろなところで発生するとのこと。わたしには工具を持ち歩くという発想が一切なかったのだけれど、カブ彦サイドバッグには工具も予備電球もはいっているらしいので、今日はこのままの状態で野営場所まで走り、後で交換しようということになった。

静岡辺りで…と思っていただけに、千葉でのキャンプ場は全く見ていなかった。休憩中に一箇所地図であたりはつけたのだけれど、そこら辺にあると把握しているだけで、どういうところなのかちっともわかってはいない。もしかすると、高額なオートキャンプ場かもしれないし、予約が必要なところかもしれない。そうだとしたら、駄目元で頼み込むとかになるのかなー。見つかるのかな。また、このまま"夜をぶっとばせ"走行になるのかなー。いろいろな(悪い)考えが浮かんでは消えする内に、辺りは真っ暗になる。東京と隣接する県とはいえ、外房も先の方になると、かなり田舎めいているのだ。ランプは切れてるし、前は走らされるし、あーう−。ナイフみたいに尖っては全てのものに難癖をつけ始めようとした矢先、左側にキャンプ場の入り口を示す看板を見つけることができた。ひとまず、寝床の場所は確認ですよ、隊長! 詳細は後ほど報告いたします。続いて本官は風呂捕獲に向かうです。ラジャー。

場所が見つかると現金なもので、下がりかけた総員(わたしとカブ夫)の士気が上がる。お風呂はそのキャンプ場よりも少し先に行ったところで、洞窟風呂とやらが一押しだとツーリングマップル様が仰っていますが、勿論、そんな洞窟仕立てがどうこうなんてことはどうでもよく、要はこのべたべたを安価に落とせるかどうか、それに尽きる。

ぐるっとカーブを回り込むようにして行くと、左手側海の方には大きめの駐車場となにかの施設が、右手側山の方にはそびえ立つ城のような建物があるのが目に入った。なんじゃろ? 目を凝らしてみると、城の下の方の壁には入浴できるようなことが書いてある。件の洞窟風呂ではないことは確実なのだが、入浴可能だということは行けるってことなんだろうか。ひとまず、駐車場にカブ夫を止める。他に車も止まっているようだし、やってるじゃろ?

「え? ここ?」
同じように駐車場にカブ彦を止めたカブ彦の人が、いささか困惑気味に声を挙げる。何? 文句ある?
「うん。あそこに入浴できるって書いてあるし」
「いや、でも…俺も疲れてるし…」
「いや、わたしも疲れてるし。だからお風呂なんじゃん」
風呂で疲れを取らずして、どうするって言うのですか。…あ。ああ、このお城のような外観、チープな照明、そして場末めいた場所。この条件を満たすものっていったら、あれですよね。あれ。

「なんか、間違えてない? これ、スーパー銭湯みたいなやつだよ」
「ああ…俺、ラブホかと思った。なんでそんなとこ行くんかと思って、めっちゃびびった」

連れ込み疑惑ですか! わたしはそんなはしたない女じゃありませんッ!!

そんな不名誉な疑いをかけられたことに釈然としない気持ちを抱えたまま、少々…いや、かなり寂れた感じのあるジャングル風呂に入る。このジャングルも名前に偽りありといった感じで、わたしの夢のジャングル風呂からは程遠いし、なによりもお湯がぬるい。これが真夏だったからいいものの、寒い季節だったら暴れだしかねない温度だな。

ひとまずさっぱりしてロビーに戻ると、既にカブ彦の人はお風呂から上がっており、ソファに腰掛けてジュースを飲んでいた。そして、また何か大発見したような嬉しそうな笑顔をこちらに向ける。

「さっき何飲もか見てたらな、こんなんがあって、ちょっといちびったろ思って」
意気揚々と差し出してきたのは、子供の頃よく飲んでいたDr.Pepperである。わたしにしてみると、古臭い、昭和の時代の名残のようなジュースだと思うんだけど…。リアル関西人はこれも新鮮なものの一つになるのか。普段はほとんど気にならないけれど、こういったところで育ってきた場所の違いを実感させられるですな。

汗も落としたし、テールランプも駐車場で替えてもらったし、後は寝る場所を確保して晩ごはんを食べるだけ。先ほど目星をつけていたキャンプ場へと向かったのだけれど、近づくにつれ、様子が予想とは大分食い違っているような雰囲気が漂ってきて…いや、そんな筈は…。

管理人さんに頼めば、2人用テント&カブ2台のスペースを空けてもらえるだろう。そう思っていたのだけれど、キャンプ場に入る私道の向こうから発せられるあの煌々と輝く明かり群は、一体、どうしたことでしょう? そして、この懐かしい夏祭りのような匂いと発電機のフル活動する音は、一体、何が起こっているというのでしょう? 垣間見えるあの場所には、余分なスペースなんて一切ないようにお見受けいたします。

そう、ここは千葉県。東京からは近い手頃なアウトドアスポット。お盆休み真っ盛りのこの時期の海の近くのこんな場所に、ファミキャンの皆様がいらっしゃらない筈があろうか、いやない。小学生の頃、一度外房を訪れただけで、すっかり千葉を知っているつもりになっていた自分が恥ずかしいですよ。

予測不能の事態に撤退を余儀なくされたわたしは、茫然自失であります。お風呂に入って一区切りしてしまった体には、このまま寝ないで走り続ける体力はもはや残っておりません。真っ暗な海沿いの道を灯台に向かってひた走る。ああ、わたしたちの今晩の寝床は一体どこになるのでしょうか……?