04/08/10 茨城県県南某市

イバラキカブーズ結成。

恥の多い生涯を送って来ました。太宰カブ夫

郷里に帰るときというのは、これ即ち郷里に錦を飾るときだと法律で決まっておりますが、大望を抱き、韋駄天の如き走りの新幹線で上阪した妹は志半ばで双眸から流れ落つる滂沱たる涙とともに家路へと……っていうか、年に最低1回は帰省してるんですけどね。

ところで、ねいさん、巷じゃカブを所持している人のことを“カブ主”と言ったり言わなかったりするわけなんですがね、言ってみりゃ、黄色いボディがセクスィーなカブ夫さんの所有者たる妹もカブ主様なわけですよ。リトルだから小カブ主ってところですかね。そういや、米アップル社の株も持ってましたっけ。1株。

というわけで、あれなわけですよ。カブ主となったからには、一度はあれをやるべきだと思ったわけですよ。ザ★お披露目会。親愛なるお姉さまにマフラーがきゅっと上がってキュートになったカブ夫さんを見せつけたい。見せてあることないこと吹聴したい。動力はペットボトルロケットだとかなんとかさ。

折りしも、カブ夫改造計画の首謀者・専属メカニックの人が一緒に夏休み取るなんて言い出したわけですよ。くくく…君はあれだな。うちの実家がどれほど遠いか知らねえべな?新幹線+特急で6時間っすよ?6時間。などということは胸に秘め、仕事を終えた月曜日の晩、仮眠を取ることもなく妙なテンションのまま出発するのでありました。(※注:ちゃんと遠いことなどは話しましたです)

茨木市役所前でめらめら中 本日のスタート地点。
茨木市役所。
ここにイバラキカブーズ結成の怪気炎なんかあげてみる。

一応、今日の目的地は、最低ライン静岡県沼津市、行けたら神奈川県横須賀市である。沼津にしろ横須賀にしろ、大阪から見たら、とにかく東へ行けという場所なのだ。東へ行くなら、国道1号線をひたすら行けば東京までは行ける筈なんだけど、日本に名立たるR1をカブ夫選手なぞがひた走ったりしてよいものなんだろうか?どうしたもんかしらね?と横を見やれば、わたしにはカー・ナビゲーションシステムの人(時折誤作動を起こして袋小路へ迷い込む)がいるじゃない。彼によると、一旦信楽方面に振ってからR1に合流するとのこと。つまり、R307→R1と進むと。山方面なんて暗くて怖そうな気がするので、何かあったときの人身御供としてカブ彦を前にして進むことにする。有事の際には、カブ彦の屍を越えて全力で逃げ帰りますので、そこんとこ夜露死苦。

しかして進むイバラキカブーズであるが、予想に反して狸の街・信楽は煌々と街中の様相を呈していた。うぅむ、恐るべき琵琶湖&狸の滋賀パワー。更に予想外だったのは、この寒さである。熱帯夜&真夏日に慣れた身は暑さ対策グッズは万全に用意してきたものの、寒さに対抗できるものといえば、今着ているスポーツゼビオジャケットのみ。しかも、部分メッシュ使い。こんなことなら、いつものようにユニクロジャケットを着てくるべきだったか?まさか、この本州で、8月の最中に歯をがちがち言わせながら走るとは思わなんだ。

さて、そろそろ限界が近づいてきたようです。この夏休みは信楽で終わる模様。今から引き返したら夜明けまでには家に帰れる筈。それとも、恥を忍んでタオルでも首に巻こうかな。とりあえず、信号…信号で止まったら、カブ彦の人に打診してみよう。

やっとのことで信号が赤になる。カブ彦の人の横に並んで止まる。あ…あのぅ…。

「あそこに止まって首にタオル巻こか」

よ、読まれてるッ!!

何はともあれ、狸と自動販売機の並んだ店の前でタオルを巻き、今更ながらの準備体操休憩を取る。しかし、丑三つ時に荷物満載のカブの近くで首にタオル巻いて手を引っ張り合う二人組の姿なんて、見たくない光景よな。しかも、照らしているのは自動販売機の薄明かり。不審者に見えるかも…。いや、そのものか?

煙草を喫っているカブ彦の人を待ちながらぼんやりしていると、目の端に車の影が映った。変な人だったら嫌だな。なにも人がいるところの自動販売機で買わなくてもいいのになあ。勝手なことを考えて、敢えてそちらの方を見ないようにしていると、車の人が声をかけてきた。「何してるの?」声の感じでは変な人じゃなさげだ。酔っ払いの人でもなさそうだし。顔をそちらに向けようとすると、今度は「どこ行くの?」と声がかかる。これは、荷物満載カブ夫先生によくかかるお声の一つですな。顔を完全にそちらに向けると…。

この配色の車は、ブルース・モービルではないですよな。あれなら乗っている人は、黒スーツに黒サングラスに黒帽子だし。その青い半袖服は--おまわりさんですな。

ねいさん、妹はいいこちゃんで生きてきて幾星霜、おまわりさんにガソリンスタンドの場所を訊くことはあっても、おまわりさんからものを尋ねられたことなんてありませんでした。状況が把握しきれずににやにや笑いで誤魔化そうにもおまわりさんの気持ちはノンストップのご様子。なんていうか、ドラクエで夜に街から外に出たら、いきなり敵に不意打ち食らわされた気分っていうか…。

パトカー が あらわれた!
おまわりさん1 の こうげき!
「何してるの?」「どこ行くの?」
おまわりさん2 は ハンドルをにぎっている!
いもうと は 5ポイントのダメージを うけた!
いもうと は にやにやわらいをした!
ミス!おまわりさんたち に ダメージをあたえられない!
かぶひこのひと は たにんのふり を している!

え?ちょっと何?他人のふり?バイク乗る子は悪い子って相場が決まってるんだから、こんなの、君は日常茶飯事じゃないんですか?これは、国際問題にも発展しかねませんよ。わたくしたちの友好な外交関係も、この信楽で崩壊寸前です。

にやにや笑いでも埒が明かなそうなので、ここはひとまず穏便に解決すべく、答えを返すことにする。でも…行く先を言って信じてもらえるだろうか?少しの間逡巡した後、行き慣れた「名古屋へ」と答えようかとも思ったのだが、まさかたかだか大阪から名古屋に行くのに深夜に出発する人はおるまい。また迷って、結局わたしが返した答えはといえば

「ひがし…と、東京まで」

というまるで漢字の読めないアホの子のようなものだった。真夜中の狸前でこんな回答をされたとしたら、わたしがおまわりさんなら、免許証の一つでも拝見するに違いない。しかしながら、おまわりさんはどうでもよくなったのか
「そう。気をつけなさいよ」
とお言葉を残して立ち去っていったのであった。

「もしかして、あれってさ、職務質問だったんかな?」
「そうやで」

チャララチャララーン
いもうと は レベル が 1 あがった!
しょくむしつもん への たいおう を おぼえた!
みゃくはく が 10 あがった!
けつあつ が 20 あがった!
なかま への ゆうじょう が 50 さがった!

外交上の微妙な問題を孕んだまま鈴鹿峠を越え、R1に合流した後にR23に入る。R23については怖い話を聞かされていて、曰く「夜のR23は無法地帯」と。なんしか、夜の名阪国道を爆走したトラック様たちが、アドレナリン吹きこぼれ状態でびゅわーんびゅわんと走らはるらしいのですよ。赤信号で止まろうものなら、ぷちっといかれるので、信号待ちをしたいときは端っこの端っこに寄らなくてはいけないらしい。

っていうか?ここは法治国家日本ですよ?そんなロードが存在するわけないですから。ねいさんから仕送っていただいた4年間の授業料を生かすチャンスは、まさに今です。行け、カブ夫。意思表示は到達主義!

決死の覚悟でR23に飛び込んでから、6時間。大阪を出て既に10時間。ねいさん、妹は静岡県に到達しました。新幹線の中から見るだけだった浜名湖付近を通過したとき、上から見る景色と下から見る景色の違いにちょっぴり感動もいたしました。ヒッチハイクの人も見ました。静岡まではわたしも行くので乗せてさしあげてもよかったのですが、多分、彼の方が遠慮したことでしょう。道路標識がやたらと「便利な浜名バイパス」を利用しろというので利用してやろうと思ったところ、125cc以下は不可だとかなんとかで腹が立ったりもしました。カブ夫さんはやればできる子なのに…。というわけで、ねいさん、妹は今、遠州灘にいます。「コンビニまで5分」といういい加減な看板にも騙されました。時速何kmで計っての5分なんだかわかったもんじゃありません。炎天下、走っても走っても着きやしません。ガソリンスタンドまであと○分という看板もデマゴークでした。ねいさん、静岡はかんかん照りです。砂漠です。暑い…。

モデル=カブ彦の人・モザイク処理済み 暑さ対策最終形態。
豊橋で首筋に貼られた冷えピタは、とうとうでこにまで貼られてしまう。
クール。

夏だから海沿いを走りたいとカブ彦殿がご所望なので、R150を走る。このR150、別名イチゴラインというらしい。150--イチゴゼロだから、イチゴって…ぷっ(ちなみに沿道にはイチゴの売店が大量にあった。そうか、これでイチゴラインなのか)。静岡は横に広いだけで、発想があれですなー。静岡空港とか建設しようとするしさ。つーか、「人口が静岡県と同規模のニュージーランド・アイルランドは3つの国際空港を設置」って、ニュージーランドは日本の3/4の大きさ(地球の歩き方より)だし、アイルランドは北海道と同じ大きさだもん、それと比べるのは詭弁ってもんじゃろ?ハッ!もしや、コンビニまであと5分看板も静岡詭弁が使われていたのでは…。

あまりの長さと暑さに静岡に悪態をつかなければいられない気持ちになる。つーか、海の上を通るとか書いてある大崩海岸だって、海沿いの岸壁の上を走るだけで、ちぃーっとも珍しくもないじゃん。こんなん、福井かどっかでも見ましたよぅだ、多分。

……あ……静岡県、ごめんなさい。

トンネルを抜けると、前を走るカブ彦の人が右側にある駐車スペースに入っていく。これは…これはあれですよ。ほんとうに道路が海の上を走ってますわ。笑っちゃうくらい。海風がびゅうびゅう吹く中、カブ夫とカブ彦を並べて写真を撮ったりする。

道路が!海の上を! いや、いいもん見ましたよ。

海上のリフレッシュ隊1号・2号のイバラキカブーズは、ここから隊列を変更してR1に入る。どちらかといえば、三歩下がって師の影踏まずタイプのわたくしは前に出たくはなかったのだけれど、ここで所持地図および出身地の事情が出てきてしまったのだから致し方あるまい。つまり、わたし:ツーリングマップル関東版所持&関東出身、カブ彦の人:ツーリングマップル中部版所持&関西出身という単純至極な役割分担なのだ。示し合わせたように全行程分の地図を持っていないことが、またなんとも言い難い感じである。どちらも中部版しか持ってこなかったらどうするんだろう?

とろとろと進んだR150に比べ、静岡のR1はその速度の恐ろしいことこの上ない。車の流れの高速っぽさもさることながら、道路の造りまでもが高速っぽさ満点である。間違えて東名高速に入り込んでしまったんじゃなかろうか?高速を逆走するのがトレンディなドライビング・テクニックとしてニュースに登場する昨今、原付が高速の入口を知らず知らず突破してしまわないという保証はあるまい。不安に猛スピードのまま、高速のSAめいた道の駅富士に入って一息つく。

「さっきな、東京まで160kmって出てたな」
「このペースで行くと4時間だから、遅くとも7時には東京に着いちゃうね」
「夜中には実家まで行けるんちゃう?」
「行っちゃう?」
「行っちゃう?」

びゅんびゅん流れる車の列と冷たい富士のトイレの手洗水の作用で、二人とも脳内から変な汁を垂れ流し始めた模様。確かに東京までは160kmという標識は見た。でも、その先の実家までは優に300kmを超す現実に気がつかない脳内汁マジック。ここまで既に400kmは走ってきている事実を忘れている脳内汁マジック。汁の効力は恐ろしいほどである。汁力が切れない内に実家に電話をしてみる。

「あ、おかあさん?○○ですけど、こんにちは。今さ、静岡県の富士市まで来てるんだけど、もしかしたら今日中に家まで行けちゃうかもしれない。夜中になると思うんだけど…。とりあえず、見込みがついたらまた電話します」

いきなりこんな電話かけてくる娘を育ててしまったことを、母は後悔しているに違いない。わたしだったら、こんな娘は廃棄処分である。アネがよくわたしのことを「S家のハイリスク・ノーリターン娘」だと揶揄するが、どうもねいさんの見込みは正しかったミタイ。テヘ★自分のことは棚に上げて申し上げますと、おかあさんは株をやらない方がよいかと思います。投資家としての能力のなさは、わたしに投資してしまったことで露呈してますから。

長時間貼り続けられた冷えピタの効力がなくなってきたので、富士の冷たい水に浸したタオルを首に巻いて再出発。信楽であれほど首にタオルを巻くという行為に躊躇したのが嘘のようだ。タオルの冷たさと車の流れに爽快感を感じたのも束の間、沼津に入った途端、車の流れが悪くなる。それでもなんとか進み、箱根峠の入口まで辿り着く。

天下の険への入口この辺りで駅伝を開催しているんだろうか?
こんなことなら、お正月にお父さんと一緒に駅伝を見ておくべきだった。

いや、しかし、同じ約90ccでも、カブ夫はかなりやるなりよ仕様で、カブ彦はかなりやる気なし仕様である。カブ夫さんは軽快に山道を登坂しちゃうが、カブ彦は青息吐息なのだ。カブ夫先生は3速じゃ力が出過ぎるくらい、4速じゃ力が足りないくらいといった具合なので、4速大好きッ子のわたくしとしては迷わず4速をチョイスする。楽々と登った後はガソリン残量が心配になってきた故、頂上付近のガソリンスタンドで給油をして、再出発……あれ、エンジンかかりませんよ?満タンなのに。

エンジンのかかりが悪いと改造担当者に訴える。もしかして山道でカブ夫に煽り走行されるのが嫌な余り、違法改造とかしてね?前まで調子よかったんですよ?

「何速で登ってきたん?」
「4速時々3速」
「それ、焼き付くで」

どうやらわたしの4速大好きぶりが仇となった模様。エンジンラブなカブ彦の人にギアの選択ミスをたしなめられ、ショボンです。

さてはて、登りつめれば下っていくのが人の世の常、山道の常であります。下りはアクセルひねらなくても進むもん、4速で行ってもいいんですよね?よね?勢い込んで4速で山道を下ろうとするも、前は車の列でつかえている。きみたちさ、普段は我が物顔で原付のこと抜かしていくんだからさ、たまにはカブ夫様に道を譲ってみたらどうよ?あぁん?心の中でチンピラプレイをしても道の具合に変わりはないので、この渋滞の原因が何か探りながら進む。あの大きなトラックがカーブで減速するから?1台のトラックに責任をなすりつけようとするも、下の方まで下りていってわかる。これって、道自体の問題なんじゃ…?

わたしたちが下ってきた道ともう1つの道が合流するところには信号はなく、まず、そこで渋滞している。それに箱根の街の造りは麓の方の細い道沿いに温泉宿が集中する形になっていて、宿に入る車を待ったりして渋滞している。さらに箱根の駅の近辺も道が細いくせに車が路駐していて…結局どうあっても渋滞する造りなのだ。むむむ。

富士で充填しまくった汁力も、箱根を下りて小田原から続く海沿いの道の渋滞には効力なしである。小田原から延々と続くこのR134の渋滞ってどうなっちゃってるわけですか?怒らないんですか?県民の人たちは。

湘南…そこは異国 それでも到着した江ノ島へ続く橋。
湘南は毎日が夏祭りの様相である。
って、ほんとうに夏祭りの日だったんだけど。

さて、江ノ島到着時刻が18:30。これから道は混雑する一方で、空くということはないに違いない。となると、7時前に東京に着くのは無理。つまり、東京タワー登ってノッポングッズを買う夢も、特許庁にパテ丸の旗がなびいているか確認する夢は泡と潰えるわけである。ノッポン…会いたかったのに…。パテ丸…は、どうでもいいや。それよりも重要なことは、実家に到着するのは無理だという事実だ。体力的にとても行けそうにない。もっと早くに気づいてもよかったのだけれど、どう考えても無理である。

「あ、ねいさん?妹ですけど。今、江ノ島にいるんですけど」

事前にメールしておいたアネに連絡を取る。突然、義妹+他人が家に押しかけるなんて迷惑なことこの上ないと思うのだけれど、義兄よ、弟妹を持つとはこういうことなのですよ。って、泊めていただく側がこんな風に威張るのもあれかと思うのだけれど、義兄よ、小姑を持つとはこういうことなのですよ…いや、ありがとうございます。

とにもかくにも目的地を義兄宅に変えたおかげで、残り距離が100kmは縮まったわけである。気合を入れ直して、佛恥義理全開で行くんで夜露死苦!!と言いたいところだが、いかんせん、長の渋滞&体力の消耗故、思うように進まない。都会めいた景色にもう東京入りしたかと思いきや、まだ、横浜市鶴見区。この鶴見区が大阪市鶴見区だったらいいのに…。もう進むことも、戻ることもできない。うー、ヤクじゃヤク!ドーピングじゃ、リポD買うてこい!

自分は歩道にへたり込み、カブ彦の人に栄養ドリンクを買ってきていただく。人生においての初栄養ドリンク服用の瞬間であるが、勿論、それを記念してデジカメに収める気力すらない。舌の感覚をなるべく使わないようにして、一気に飲み干す。

--ムッハーッ。なんか元気出たような気がするです。必殺★病は気から走行で、とりあえず元気モリモリムードで東京を目指す。モリモリしすぎて、赤信号なんか無視ですよ。エイヤッ!いや、ほんとうに素で無視しちゃいました。

リポDパワーも切れかけた頃、やっとの思いで東京に入る。ここからはああ行ってこう行って、日本橋辺りでR6に入り、あとは一直線な筈。東京でR6って言ったら、あれだよにゃー。確か、アサヒビールかなんかの大きなウンコ見られなかったっけ。ウンコ。自分のテリトリーに近づいてきている嬉しさから、品川駅付近で信号待ちをしながら、カブ彦の人にオブジェについて解説をする。あれさー、ほんとは違うんだけどさー、どっから見てもあれなんだよねー。そういや、ノッポンもあんな形してね?排泄物の話題に盛り上がるって、わたしは小学生男子ですか。

アサヒビールのオブジェに思いを馳せている内にカブ夫はどんどん進み、とうとう銀座のど真ん中に潜入することに成功。わたしの人生における二回目の銀座体験である。宮下銀座だとか日本に数多ある銀座の総本山において、日本人なら誰しも憧れる銀ブラとやらをまさに今、カブ夫殿は体験しているのである。たとえ1車線が客待ちタクシーに埋められていようとも、銀座は銀座なのだ。ついでに言うと、東京であろうが大阪であろうが、タクシーのあの不可解な動きに変わりはない。きらびやかな光にほえーっと見惚れていると肝心の曲がり角を見失うので、そこは用心しながら進むのだが、一つ、困った問題が浮上してきた。

つーか、道路標識がねえ。

ここが銀座だっていうのは、わたしにもわかるんですけどね、あるじゃないですか、ここが銀座のどこかってのを示すあれが。わたしの曲がりたい角はどこですか?

仕方ないので、適当なところで曲がって適当に進み標識を探す。ちょっと遠回りしたが、無事にR6に合流する。後はこれを義兄宅、メゾン・ド・鰍までぶふーんと猫まっしぐらである。ぶぶぶーん。

子供の頃から見慣れたR6=ロッコクですから、後は目瞑ってても着くっすよ。っていうかさー、ロッコク沿いなんてほとんど人なんて住んでないから、道なんてがらがらっすよ。多分、千葉で8人くらい、茨城で5人くらいしか住んでないね。と思っていたのも束の間、またしても渋滞である。今度はなかなか長そうな、本格的渋滞だ。何がどうしたもんかと思いつつも、カブ彦の人を前にしてすり抜けを始める。荷物満載のカブ夫&カブ彦がすり抜けをしているのに刺激されてか、律儀に渋滞の列に加わっていた他のバイクの人たちもすり抜けを開始する。

抜けて抜けて抜けまくって、渋滞の先頭に出ると、その交差点にはパトカーが止まっている。警察の人の指示に従って止まる。何か事故なんだろうか?

「あの単車、死んでんで」

言われて見やると、交差点の左の隅にバイクが1台転がっている。そのバイクの所有者の姿がもうそこにはないし、救急車もいないので、今の状態は事故の事後処理渋滞みたいなものなんだろう。全くの見ず知らずの人だし、今後も出会うことがないだろう人だけれど、助かっていて欲しいなと思いつつ、なるべく倒れたバイクを見ないようにしてその場を過ぎる。

そこからのロッコクは、いわばロッコクの真骨頂を発揮せんばかりの空きっぷりだった。そりゃ、こうじゃなくちゃいかんだろう。どうもロッコクにもバイパスというものは存在するらしく、↑○○市街という標識の方向を避けて行くと、どんどんと暗くて空いている方へと進んでいく。

やーっとやっととと で・き・たー

あ、さっちゃん…。

やーっとやっとととで・き・たー

何ができたんですか?

やーやーやーやーでーきたできた できたできた えいえいおー

えいえいおーおーえいおーおー……

ねいさん、十年来の謎が解けました。わたしの唯一の友達・こびとさんは、どうやら教育TVのさっちゃんだったようです。牛久の真っ暗なロッコクで、わたしはそれに気づきました。さっきまで龍ヶ崎って書いてあったような気がしたんだけど、多分、カブ彦の人が改造の際にオートクルーズシステムなんかを入れてくれたおかげでしょう。全然意識せずに暗闇の中を走ることができました。感謝の気持ちを込めてバックミラーを覗いてみれば、カブ彦の人は憧れのチバラギ仕様の本場で昔を思い出してか、蛇行運転で進んでおります。カブ彦が、熟練の技でゴッドファーザーの曲を高らかに鳴らす時間も迫っているんじゃないでしょうか?…蛇行?

程なくして現れたコンビニの駐車場の縁石に荒々しくカブ夫で乗り上げる。そりゃ、もうそろそろ運転時間24時間と相成るわけなのですから、わたしも非常にやばい状態なのですよ。カブ彦も続いて乗り上げてくる。

「どう?」
「限界」

「ちょっとだけ」と言って、カブ彦の人はカブ彦の横に寝転がる。休憩も必要だけど、君は横になって寝てしまったら、もう二度と起きられない人なんじゃ?寝たいという人を無理やり起こすなんて、なんだかハートマン軍曹にでもなった気分である。

だけれど、もうわたしもいっぱいいっぱいです。単に実家に帰省するだけなのに、何故に限界を超えてまで走っているのでしょうか?段々わけがわからなくなってきました。ねいさん、これは夏の恒例24時間テレビの100kmマラソンを超えたドラマが生まれる瞬間なんでしょうか?ここは一発、わたくしが声高らかにZARDさんにでもなりきって「負けないで」とかなんとか綺麗事をうたい上げてみるべきでしょうか?ねいさん&義兄さんには、加山雄三&谷村新司の大役を与えます故、わたしたちが到着した暁には「サライ」をうたうべきです。そのくらいのクライマックス感は欲しいところです。しかしながら、今のわたしたちがふとした瞬間に視線がぶつかるなんてことはあり得ません。お互い、魂の抜けきった目をしていますから。

残り少ない気力を使って再出発を試みる。鰍御殿まではあと20km弱といった地点まで来ているのだが、ここで素敵な泣きっ面に蜂情報が一つ。わたしは義兄宅の場所をきちんと把握していないのである。何度か行ったことはあるのだけれど、いつも駅まで迎えに来てもらっているため、ちゃんと周りの道なんて見ちゃいないのである。つーか、見るわけねえべ?

案の定、思ったロッコクとは違う方、つまりバイパス、つまり予想以上に山側、すなわちわたしの知らないところに出てしまった。バイパスから降りたはいいけれど、街はどっちだろう?街灯の下、地図と方位磁針を照らし合わせて検討してみるのだが、はっきりと決断が下せない。ここは一つ、カブ彦の人に後押しをしてもらうべきだろう。もう燃え尽きて抜け殻状態だけど。

「これさ、今ここにいて、おねえちゃんちがここなの。で、多分、この道路がこれだよね?ってことは、あっちに行ったらいいと思うんだけど…」
「それならそうじゃないんですか」

ムキーーッ!!地図を投げ捨てたい感高まりまくりっすよ。なんですか、その盛り下がりっぷりは。泣いてごめんなさいと言わせたいくらい愚痴愚痴と言い募りたい気持ちになるが、わたしが逆の立場だったら、きっと同じテンションの低さだろうとぐっと堪える。大人…そう、わたしはいい大人なんですから。

ひとまず、目星をつけた方にカブ夫を走らせる。見覚えのないような、ないような…。お!あった!!これは、ねいさんに厄介な仕事を持ち込むあの館じゃないですか。カブ彦のことなどお構いなしに角を曲がる。ああ、知ってるよ、この道。程なくして、無事にメゾン・ド・鰍駐輪場に到着する。

「荷物、全部降ろした方がいいよ。ここ、治安悪いから」

人の住んでいるところをデンジャー・ゾーン呼ばわりするのもなんだが、事実は事実なので仕方がない。箱やらシグボトルやらを外し、エレベータに運ぶ。エレベータがなかったら、駐輪場で野宿するところだった。アネ的には面白いからという理由でそれをさせるつもりだったらしいけれど、そんなデンジャラス・シティに妹を放り出すなんてこと…あの人ならやるか。

ともあれ、時刻は1時過ぎ。出発してから25時間経過したこのカブ旅も、一つのクライマックスを迎えようとしています。玄関のドアを開けると、そこには加山と谷村、それに徳光が感涙にむせびながらサライでわたしたちを出迎えてくれる予定。の筈が、出迎えてくださった鰍一家も盛り下がっているみたい。ハハハ…。そりゃ、寝ているところを起こしたわけですから。大人らしく挨拶などを交わした後は、風呂を借り、鰍邸のお化け部屋で泥のような眠りにつくのでありました。

今日わかったこと:脳内のこびとさんはさっちゃんだった。
         茨城と大阪は陸続きだった。