03/08/01 京都府舞鶴市
浮かぬ気分で北上。
熊カレーのことばかり思い続けていたら、ずるずるずるっと夏休み初日が来てしまった。しかし、当日12:20。どこにいるのかといえば、まだ会社パソコンの前である。
「という感じだけど、できそう?」
「……頑張ります」
じっと追いすがるような目でこちらを見つめるチワワちゃん(イクコ様の後任新人さん)を置いて1週間超の長きに渡る夏期休暇を取得するのは、いささか罪悪感を禁じ得ないのだが、これも運命だと思って諦めてもらうほか仕方あるまい。だって、チワワちゃんが入社する前から、この時期に夏休み取るって決めてたもん。つーか、彼女が生まれる前から決めてたね。
会社のために滅私奉公して休みを返上or変更すべきか?答は否やである。何故なら、わたしは一介の事務員。永遠の一雑用要員ですから。責任の重たさは給料の額に比例するのです。すなわち、わたしの責任はless than zeroでございますのよ。
チワワちゃんの視線の痛さを忘れるべく、脳内できっちりと責任の所在を転嫁して、一旦帰宅する。本日は午後半休を取り、そのまま北海道に船出しちゃうわけなんだが、なんというか、珍しく気分が盛り上がらない。新人さん放ったらかしにして休みを取るということに罪悪感を感じるのも、ひとえに北海道行きに対するモチベーションの低さが原因かと思われる。なんというか、今回の夏休み、「みんなが行くって言うから」なる小学生的発想に基づいて計画されたもので、わたし的には……、まあ、いいや。
小山を背負って給油しに行くのも恥ずかしいものがあるので、まずは空荷でいつものスタンドに向かう。満タンにして軽快に走ろうとすると、何故だかカブ夫さんから羽音のような異音が鳴っているのに気づく。何だろう?まさか、罪悪感が具象化して蜂か何かになっちゃったんじゃろか?それとも、先日取り付けたばかりベトナムキャリアの呪い?やっぱり、わたしの仕事じゃなにかトラブルを生じさせると思ってましたよ。きっと何かの具合でフレームが歪んじゃったりしているに違いない。これじゃ北海道どころじゃあるまいね。ねいさん、北の大地は思った以上に遥か遠くにあるようです。
とりあえず、そのままバイク屋さんにゴーである。オイル交換ついでに尋ねると(というか、これを訊きたいがためのオイル交換なんだけど)、バイク屋さん曰く「ベトナムキャリアのバネの部分が振動で鳴っているのではないか」とのこと。押さえてみると……なるほど、鳴らないわ。
疑問を解消して自宅に戻り、暑い昼下がりの日差しの下、荷物を括りつける。汗だくになればなる程、更に気分は低下していく。カブ夫タン、わたしたち、なんで北海道なんか行くことになったんだろう?
思い起こしてみれば、あれだ。北海道=ライダー様の聖地という図式の例に漏れず、昨年知り合ったキャンパーの皆様方も事ある毎に「北♥」「北海道♥」と仰られていたわけで、彼らに冬から春にかけては「北海道、行くんやろ?」の言葉を、春以降は「北海道、いつ行くん?」の言葉を浴びせられ続けた結果、嫌とは言えない主体性のないわたくしは、さしたる下調べもしないまま、フェリーの予約をし、こうして出発するわけである。となると、今回の浮かなさっぷりの戦犯はキャンパーの人たちである。このキャンパーの人たちと何故こんなことになっちゃったのかといえば、去年11月の川湯に行っちゃったのが原因なわけで、何故川湯に行ったかといえばカブ夫を購入したからである。何故カブ夫を購入したかといえば、散歩途中のバイク屋さんで見かけたカブ夫タンが愛らしかったからであり、何故散歩をしていたかといえば、それがわたしの趣味だったからで……ああ、もう、生まれてすみません。
車庫→スタンド→バイク屋→自宅の行程で既に北海道行きは暗礁に……というか生まれいづる悩みにまで発展しそうな勢いになってきた。たかだか夏休みひとつに、わたしってば哲学者だよにゃー。ここでくじけて10日間ひきこもりの夏休みというのもネタ的には面白そうだが、払ってしまったフェリー代は惜しい。ここはひとつ、気力を振り絞って出発せねばなるまい。
暑い上に混むのが目に見えているR173に行けばますます気分が萎えてしまうので、ここは少々遠回りであってもR423を選択する。R423を北上し、程よきところでr732→r54→R173と行く道がベターと結城モイラも申しております。そのご神託に従い、そのようにする筈が、いつもの如く曲がり道を曲がり忘れて亀岡市まで突っ切ってしまう。これは……少々じゃないじゃろ?カブ夫さんよぅ。しかしながら、来てしまったものはどうしようもない。軌道修正のために戻るにしても手間だし、なおさら深みにはまること必至である。ここは臨機応変にR372→R173と戻るルートを取ることにする。きちんと舞鶴に辿り着けるんだろうか?一抹の不安が胸をよぎる。行かなかったのと行けなかったのとじゃ大違いだ。
平日午後という時間帯のせいか、R372は結構トラックが走っている。カブ夫よりも遅いスピードで坂道を上がるトラックの後を、他の車と一緒にとろとろと着いていく。坂道でスピードダウンしちゃうと取り戻すのが大変だから、なるべくだったら全開で一気に行きたいんだけどな。それは叶わない夢である。
わたしの大胆な時間予想によれば、舞鶴到着は暗くなってからの予定だったのだが、着いてみれば夕暮れどきの17:45。さて、これからどうするべきか。
ここで「北海道って言ったら、大洗からじゃね?」と思うかもしれないねいさん(あるいはフェリーなんて手段は毛頭ないのかもしれないが)に説明しておくならば、関西方面から北海道に向かうには舞鶴または敦賀からフェリーに乗って向かうのが一般的なのである。さらに補足すると、舞鶴=京都府、敦賀=福井県ですからね?いいですか?
たまに、こびとさんに夜通しバイクを運転させて青森とかまで行っちゃってフェリーに乗る人もいるけれど、それは横に置いときます。
で、この舞鶴。端的に言えば、肉じゃがと海軍の街である。海上自衛隊の学校が海沿いにあったりして、土日の9:00〜17:00に見学を受け付けていたりするわけで、恐らくそこではフルメタル・ジャケットな世界が繰り広げられているわけですよ、サー!サック・マイ・ディックときたもんですよ。
そんな舞鶴に明るいうちに着いたはいいけれど、出航は23:30。約6時間も時間がある。そこで、北の大地にゃスタンドが少ないと聞いたので、今の内に再給油&スーパーで買い物を済ませる。これで、小樽到着→いきなりガス欠→北に行ってもエマージェンシー!のパターンはなくなったわけである。ねいさんは残念に思うかもしれない。思うかも知れないけれど、妹だって大人になるのですよ、いい加減。許せ。
とはいえ、これだけの買い物で数時間の暇がつぶせるわけでなく、かといって海上自衛隊の見学もできるわけでもない。乗り場でチケットを換えてから、とりあえず釣り人のいる港にて海を眺めながら昼ごはんを食べることにする。

このままここで果てちゃってもいいような勢いである。
駐車場に戻ると、同じように早めについて暇をつぶしている人たちがいた。彼らと適度な間隔を取りつつ、道路縁に坐ってみたり、メールしてみたり、ストレッチしてみたり……ひたすら、ひたすら乗船の声がかかるのを待つ。
そういえば、フェリーの中じゃお友だちを作るのが相場と噂で聞いたことがあるよな。ふと魔が差して、同じようにひたすらっているライダーの人に声をかけてみようと頭の中で会話のシミュレーション作りをしてみるが、すんでのところで思いとどまる。よぅく考えても見てください。人見知りッ子のわたしがそんなことをするのは、リトル浮かれすぎじゃないですか。そもそも、一体、何を話したらいいんですか?「フェリー、いつ出航でしょうね?」とかかしらん?そんなん、23:30って書いてあるじゃないですか。柄にもないことはしない方がよいと、ルネ・ヴァン・ダール・ワタナベも言う筈である。
そんなこんなでひたすらり続けて、22:00。やっと乗船のお声がかかる。乗船の順番は、トラック、歩き&ライダーの人、そしてドライバーの人の順。カブ夫はバイクその6としての乗船である。それもこれも余裕を持って出てきた賜物。しかしながら、スポットライトさながらの灯りに照らされ、他のライダー様が今か今かと待ち焦がれている中、船に続く坂道を上がるのはかなりの緊張ものである。ここで溝にタイヤを取られてぐらりなんてしちゃたら、それこそ末代までの恥。泣きながら大阪まで夜道を引き返すしかない。それだけは避けたい。乗り込まなかったと乗り込めなかったのじゃ、わけが違う。
決死の覚悟で船に乗り込み、事なきを得たのも束の間。駐車を指示する係員の人から思いも寄らない言葉を投げかけられるのである。
「ギアは1速。ハンドル・ロックして、荷物は全部下ろして」
「え!?箱も下ろすんですか?」
「外せないの?」
「いや、外せます。…箱、中まで持っていくんですか?」
「使わないんであれば、その辺置いといて」
別府から大阪に戻ったときは荷物は下ろさずに手荷物のみを持ち込むという形だったので、この言葉がリトル衝撃的でしたよ?かくして苦労して積んだ荷物を解き、身の回り品を持って船内へ入る。
二等寝台を取っているので、まずは案内所でベッド番号を受け取る。ベッドを作った後は、キャンパーの人の教え通りさっさと空いている内に入浴を済ませる。うし、順調。マニュアル通りに運ぶってのは、なんとも気分がいいじゃありませんか。マニュアル大好きッ子の面目躍如って感じである。
その後、二等船室に部屋を取っている知り合いの滋賀&大阪ライダーと合流し、ビールをご馳走になって就寝。明日の朝、フェリーらいらっくがタイタニックと改称してることなんてありませんように……。